お葬式でお供え物の料理には、「肉や魚は使ってはいけない」として精進料理を準備することが一般的です。でも、沖縄では必ず豚肉を準備します。今回は沖縄のこの不思議な風習の原点を探ってみます。
そもそも精進料理ってなんだっけ?
お葬式に出される料理といえば、肉や魚を使わない精進料理が一般的です。そもそも精進料理は仏教の考え方に由来があります。
仏教では殺生は禁じられています。
肉や魚などを食べるということは、魂を奪うということ。つまり、仏教の教えにある「殺生」に反することになります。そのため、仏教では魚や肉などを食べることはしません。
日本のお葬式は仏教の教えに基づいて行われることが多いです。
つまり、仏教式のお葬式だからこそ、仏教が禁じている肉類を食べることが出来ないのです。その代りに肉食の代わりとなる精進料理が出来ました。
ちなみに、精進料理で大豆を加工した料理が多く作られるようになったのは、肉類のたんぱく質を補うためだといいます。
たんぱく質が豊富に含まれる大豆を加工して作られる味噌や醤油なども精進料理から生まれたものだといわれていますし、豆腐や湯葉、さらには高野豆腐なども精進料理が原点です。
さらに、こうした大豆の加工食品を使った「もどき料理」も精進料理がもとにあります。“がんもどき”などは、まさにその代表格ですね。
沖縄ではお葬式で豚肉は欠かせない
沖縄のお葬式では、お供え物にも豚肉を使います。
その昔は、豚一頭をお供えすることもあったようですが、これは上流階級でのことです。
何しろ、かつての沖縄では豚は貴重な食糧でした。貴重な豚肉は肉や骨・皮だけでなく油までも大事に保管して使いました。これが一般的な庶民の生活です。
そう考えると「お葬式のために豚一頭をお供えする」というのは庶民のお葬式では現実的ではないといえます。
それでも沖縄では、昔からお葬式には亡くなった人のために最高の食事をお供え物としてきました。
ですから、豚一頭を準備できない場合は豚の塊肉をお供えし、豚肉を準備することが出来ない場合は、豚の代わりにニワトリを準備。さらに、ニワトリ1羽を準備できない場合は、「せめてニワトリの代わりに…」ということでニワトリの卵をお供えしていたそうです。
こうした名残は、今でも沖縄のお葬式の風習として各地域で見られます。
さすがにニワトリをお供えすることは今ではみられませんが、ゆで卵をお供えしたり卵焼きをお供えするご家庭は今でもあります。
いずれにしても、沖縄で豚肉をお供えするようになった理由には、亡くなった人に対する最高の敬意という意味が含まれていたということが分かります。
沖縄では豚以外にも牛やヤギをお供えすることもあった
沖縄県と鹿児島県の奄美群島の古い風習には、豚以外に牛やヤギをお供えすることもありました。
なぜ、牛やヤギをお供えしたのかについては諸説があるためはっきりとしたことはわかりません。
ただ、沖縄が「琉球」といわれていた時代には、祭祀や祈祷を行う時には豚をお供えするのが習わしでした。
でも、豚が琉球で飼育されるようになったのは琉球時代以降ですので、それ以前は家畜としていた牛やヤギなどが使われていたといいます。
その名残が、豚以外の牛やヤギのお供えへとつながったのではないかという説が有力です。
豚肉は参列者にふるまうのも沖縄の風習だった
今では、お葬式の豚肉というと沖縄の重箱料理の三枚肉(豚肉の煮つけ)が殆どです。
基本的に重箱料理は供物として準備されるのですが、かつては豚肉を参列者にふるまうことがお葬式の風習でもありました。
地域によってもやり方には違いがありました。
那覇の場合は亡くなった人が70歳以上の時に豚肉料理を出しましたが、ふるまうのは女性の会葬者だけだったといいます。
漁師の街である糸満では、亡くなった人が老人の場合には男女関係なく会葬者に肉を3切ずつ配ったといいます。
ただ、かつての沖縄は「お葬式=墓に納骨すること」であり、参列者も全員墓まで葬列を作って出向いたといいます。ですから、ふるまわれたのは墓からの帰り道だったと考えられます。
現在でも沖縄では、お葬式の当日に墓に納骨をするのが一般的です。ですから、豚肉料理を含む重箱は納骨の際にお墓でお供えします。
そして、納骨が終わるとお供えした重箱は、納骨に立ち会った全員がその場で食べます。
こうしてみると「かつては参列者全員に豚肉料理をふるまった」という風習が、形を変えて今も受け継がれているといえるのかもしれませんね。
【まとめ】沖縄では仏教式でもお葬式では豚肉料理は欠かさない
沖縄でもお葬式は仏教式で行うことが多いです。もちろん、納骨のときにもお坊さんも一緒に立ち会います。
「仏教では殺生を禁じているはずなのに…」と思うかもしれませんが、ほとんどのお坊さんはそのことに対して特に何も言いません。(もちろん、中には「肉類を含まない精進料理の重箱以外は認めない」というお坊さんもいます)
理由を知らないと、なんだか不思議に思える沖縄の風習ですが、亡くなった人に対する最高の敬意を表す手段として豚肉をお供えしていたのがルーツであるとすれば妙に納得します。
でも、それが本当だったとしたら・・・100年後には豚肉の煮つけ(三枚肉)の代わりに最高級のブランド豚のステーキをお供えするのが主流になるのかも…。(笑)
いずれにしても「沖縄文化に豚肉料理は欠かせない」ということは、これからもずっと変わらないのでしょうね。
沖縄の人達らしい理由だな・・・と、妙に納得しちゃいました。