沖縄には霊媒師(シャーマン)である「ユタ」や、「御嶽(うたき)」というお祈りをする場所があるなど、神聖なところや歴史がたくさんあります。その中でも、沖縄に住むそれぞれの家庭にかかわってくるのが「火ぬ神」と呼ばれている神様なんです。
その家専属の神様!?火の神(ヒヌカン)って…?
沖縄はその昔、ニライカナイという遠い遠い東の果てにあるところからアマミキヨという神様がやってきて、沖縄という島を作ったと言われています。
そんなアマミキヨという神様と同じように、ほかにもたくさんの神様が身近なところにいらっしゃいます。そのひとつが「火の神様」。
全国的に「かまど神」や「火の神」として祀られているのですが、特に沖縄ではヒヌカン(火の神)といい大切に崇められている存在です。このヒヌカンですが、家内安全はもちろん農業や家畜、家族を守ってくれるといういわばその家の守護神とも言える神様。
沖縄では当たり前のようにヒヌカンが祀られていて、最近では少なくなってはいますが多くの家庭にそれぞれの形でヒヌカンを祀っています。
家を建てるときなどに「ヒヌカンはどこにする?」などと相談しながら、ユタの方にお願いするご家庭もあるほどなんです。ヒヌカンを建てることを「火の神仕立て(ヒヌカンシタティ)」といいます。ユタの方にお願いするのはもちろんですが、自分でもすることは可能です!
火の神の仕立て方
まず大切なのは、その人の気持ちです。
どんなにきちんとセットを仕立てたとしても、しっかりお祈りしたり家のことを報告するという「信心深い気持ち」がなくてはなりません。やり方が多少違ったとしても、月に2回ある報告の日にはきちんとお祈りするなどしっかりとお供えをしていきましょう。
- 花瓶:お供えする緑(チャーギ(犬槇)・クロトン・榊など)
- 湯呑み:毎日お水を入れ替えます
- 小皿:塩を盛ります
- 盃:泡盛を入れるものです
- うぶく茶碗3つ:うぶくというのは、ヒヌカンにお供えするごはんのことをいいます。本来は3つ必要ですが1つのところも。
- 香炉:お線香を立てるもの
仏具屋に行けばヒヌカンのセットが販売されているので、そちらを購入すると手間がかかりませんしやり方も教えてもらえるでしょう。また、ご実家から引き継ぐ(長男や長男夫婦)場合と新しくヒヌカンを立てる場合では方法が違います。
どちらの場合も、まずはヒヌカンを仕立てる日をいつにするか決めます。ここでポイントなのが、イベントなど行事がある日は避ける・家族の生まれ干支の日を避けること、さらに大安を選びましょう。
香炉(ウコーロー)は、前日までに塩で洗って乾かしましょう。
実家から火ぬ神を引き継ぐ場合
長男の方は仏壇を引き継ぐように、沖縄では「ヒヌカンもセットで引き継ぐ」と考えておいてください。
実家に行ってまずはヒヌカンに向かい、ヒヌカンを移動するということをご報告します。そのとき、お線香に火をつけて立ててグイス(お祈りの言葉)を唱えながら半分くらい燃えるまで待ち、この間に「お線香に移ってください」という拝みをします。
神様が移ったら火を消して、神様が移った線香が折れないようにアルミホイルなどで包んでおきます。実家の香炉から灰をもらうため、下の方からスプーン3杯くらいの灰をもらいます。
次に、新しくヒヌカンを立てるところに準備をします。新しい灰を入れたあと、もらった灰をいれます。そして、神様が移った線香に火をつけてから「こちらの新しい香炉に移ってください」と拝みながら、またグイスを唱えます。
線香がすべて燃え落ちたら、新しく次に線香を立てて「ありがとうございました、今後もこちらでよろしくお願いします」とお礼をしましょう。
新しく火ぬ神を仕立てる場合
実家から引き継ぐのではなく、自分たちでヒヌカンを仕立てるという場合には、ユタの方に来てもらうのもよし、自分たちだけでするもよし、です。
本家(ムートゥヤー)や、地域のヒヌカンに灰を分けてもらうなどしましょう。あとはやり方は同じです!
結婚でそれぞれ家を離れるという場合、夫側・妻側どちらのヒヌカンからも灰をもらう…など、やり方はいくつかあるようです。また沖縄では、ヒヌカンの仕立て方についての本が売られているのでそちらを見るのが良いかもしれませんね。
お供えの仕方や毎日やる事とは?
お供えするお水は毎日取り換えましょう。
ごはんをお供えする「うぶく」ですが、これは毎月1日・15日に行い、うぶくは炊いたごはんや赤飯、なかには玄米を使うという方もいらっしゃいます。緑の植物(チャーギや榊)、お酒、塩も一緒に新しく取り換えていきます。
1日・15日が近づくと、サンエーなどのスーパーではチャーギという植物が店頭に並びます。火ぬ神にお供えする一般的な植物で、簡単に手に入ります。
火ぬ神も掃除が必要!掃除は御願解き(ウガンブトゥチ)に!
私たちが年末の大掃除をするように・・・火ぬ神も年に一度掃除が必要なんです。
それはいつでもいい・・・という訳ではなく、旧暦12月24日 御願解き(ウガンブトゥチ)というときに行うという決まりがあるそうです。
ウガンブトゥチというのは、香炉の下に溜まっている古い灰を捨ててきれいに掃除をして、新しい灰を入れ替えることをいいます。
掃除のあとはヒヌカンヌブイ(火の神昇り)
次は、そのまま「ヒヌカンヌブイ」を行います。ヒヌカンヌブイ(火の神昇り)というのは、1年に一度、ヒヌカンが天へ昇ってウティン(天界)の神様に1年にあったことを報告しに行くことをいいます。
ヒヌカンはその家々の神様・・・。「実家から引っ越ししてきました」「子どもが生まれました」「体調が悪いんです、早く治りますように」・・・などなど、その家庭での出来事やお願いごとを1年聞いたヒヌカンは、まとめとして天界の神様へ報告しに行くのです。
沖縄の平線香というのは6本つながっている特殊なお線香です。これを使って3本1組のお線香を7組つくり、順番に火をつけて並べる・・・そうすると、順番に燃えていくのでまるで階段のようになりますよね。これが、ヒヌカンが天へ昇っていくための階段なんだそうですよ。
「天の神様には、良いことだけをご報告してください」とお願いするのがキモだそう。次にヒヌカンが帰ってくるのは、地域によっても若干違いますが大晦日か元旦になるとのことです。 こちらは実家やその地域の方に聞いてみてくださいね。
各家庭を温かく見守ってくれる火ぬ神
よく、ユタの方に見てもらったら長男ではなくても「ヒヌカンを立てた方が良い」と言われる方もいらっしゃるそうです。
ヒヌカンシタティの方法はそれぞれ違っていたりしますが、先ほども述べたように「気持ちが大切」です。ヒヌカンに来ていただき、家を守ってもらう、そして家族の話を聞いていただき、お願いを聞いていただく。
多少方法は違ったりしても「ありがとうございます」という気持ちをもち、毎日お水をかえる、うぶくを供えるといった基本的なことをしていればOKです。ずっと家族のそばにいてくれる存在が、ヒヌカンなのです。
各ご家庭に専属の神様がいる・・・という感じです。うちは移住組なので、火ぬ神は持っていませんが・・・「機会があればうちにもお迎えしたいな」なんて最近では思うようになりました。
古い灰はこれまでの1年、ヒヌカンにお願いをしてきたことが積み重なったものです。灰を新しくすることで心機一転、火の神にとっても居心地の良い場所をつくるということですね。