豚は、沖縄の暮らしになくてはならない食材です。料理としてはもちろんですが、冠婚葬祭や民間宗教のお供え物としても、豚肉は使われます。そのため、昔から沖縄では「鳴き声以外はすべて食べきる」と言われているほど・・・。そんな豚肉ですが、沖縄県で販売される場合は殆どが方言での表記になっているんです。
豚肉の部位はスーパーでは方言で表示される
豚肉は、沖縄の人にとってなくてはならない食材です。それだけなじみが深く、歴史も古いのです。だからなのか、スーパーで精肉コーナーをのぞいてみると、そこには方言で書かれた部位の名前があります。
ウチナンチュにとってはあまりにも当たり前すぎて、何も疑問に思うことがないこの現象ですが、本土出身者にとっては全く意味が分からず、名前を聞いただけではそれが肉であることすらわかりません。
肉の部位にはこんな方言がある
とりあえず、沖縄で豚肉を買う時に困らないように、部位の方言名をざっと紹介しておきます。
豚肉の部位
- バラ肉
- ハラガーまたは三枚肉といいます。
- スペアリブ
- ソーキです。そばだけではなく煮つけや、ソーキ汁としても定番です。
- 肩ロース
- 沖縄県民は、肩ロースをBロースといいます。ということはAロースもあります。
- ロース
- 尻側のロースを沖縄県民はAロースと呼んでいます。
- 耳
- ミミガーです。もちろん、これも食べます。コリコリとした食感が病みつきになります。
- 前肉
- 前足の上部分にある肉です。これは、グーヤヌジーといいます。
- 豚足
- 豚足には、前足をメービサ、後ろ足をアトビサといい、さらに、爪先に近い部分をチマグ、ももに近い部分をテビチといい、それぞれ分別された状態で販売されます。
- 鼻
- ハナブクといいます。大部分がタンパク質で構成されていますが、限られた部位となるため、非常に貴重です。
- 血液
- チーといいます。もちろん、血も料理に使います。
ちなみに、豚肉以外は方言では表示されません
肉文化が定着している沖縄では、豚肉以外でも牛肉・鶏肉ともによく食べられています。
ですが、牛肉と鶏肉には、沖縄独特の方言はなく、スーパーでは本土と同じように表示がされています。
沖縄の豚肉料理はここまで凄かった
沖縄では「鳴き声以外はすべて食べきる」といわれていますが、「さすがに全部食べるのは不可能だろう・・・と、みなさんが思う気持ちがあることはよくわかります。
ところが、実際に沖縄に住んでみると、これがただの言いがかりではないことを思い知らされます。なにしろ、豚肉を愛してやまない沖縄には、豚のあらゆる部位に方言の名前を付け、ずっと親しみ続けてきた歴史があります。
実際に、沖縄県民はどのようにして豚肉を食べているのか・・・ご紹介していきたいと思います。
ソーキ
あばらの部分にあたるソーキですが、実際には、「本(骨)ソーキ」と「軟骨ソーキ」の二つがあります。軟骨ソーキは、あばらの部分の中でも先端部分に位置する部位で、本土では販売されていません。
ソーキは、本土の方にはソーキそばの具として知られていますが、沖縄県内ではソーキ汁や、ソーキの煮つけ・ソーキ丼など・・・様々な食べられ方がされているんですよ。
ミミガー
豚の耳の皮ですね。コリコリとした食感なので、好きな人にはたまらないですが、ウチナンチュの中でもこの食感は、好き嫌いがあるようです。
ちなみに、顔の皮にあたるチラガーも、食べ方としては同じです。
中身
これは、漢字をそのままよむ「なかみ」と読みます。豚の胃や腸のことを言い、沖縄では、祝いの席には欠かせない「中身汁」として使われます。
中身汁は、何しろ手間がかかるため、親族が集まる時のご馳走としてふるまわれることが多く、味付けも、家庭によってそれぞれ違うため、ウチナンチュのおふくろの味といえる料理です。
三枚肉
バラ肉なので本土でもよく見かけると思いますが、違うのは、沖縄では皮付きのまま販売されているという点にあります。ちなみに、沖縄の正月や盆に出される重箱料理には、必ずこの三枚肉の煮つけが含まれています。
これも、家庭によって味付けに違いがあるため、帰省した時のご馳走として楽しみにしている県外在住のウチナンチュも少なくないはずです。
テビチ
ウチナンチュに買い物を頼まれたら、「チマグ(爪先)」か「テビチ(もも)」かしっかりと確認してからでないと、大変なことが起こります。
あと、テビチ好きの人を「テビチジョーグ」といいますが、彼らの前では、「メービサ(前足)」と「アトビサ(後ろ足)」も間違ってはいけません。なにしろ、肉付きが違うため、どちらを食べるかによって満足度が変わるのです!
チー
豚の血を入れた炒め物料理を、「チーイリチー(チーイリチャー)」といいます。夏の疲労回復と滋養強壮に良いため、昔から根強いファンがいます。
見た目的には、炒められているので、それほどグロテスクではなく知らない人から見るとレバニラのようにも見えます。ただし、初めてのチャレンジの場合には、食べるのに勇気はいります。その為、沖縄県民でも食べたことがないという方も多いのだそうです。
豚肉を庶民が食べるようになったのは意外と最近のことだった
ありとあらゆる部位を食べつくす沖縄では、さぞや昔から庶民の味として親しまれてきたのだろうと思いきや、その歴史は意外なことに、それほど古くはありません。
18世紀ごろには、一般家庭でも飼育されていた豚ですが、実のところ、庶民の料理として頻繁に食卓に上がるようになったのは、戦後以降のことでした。それまでの沖縄の主食は、米ではなくサツマイモであり、豚肉で摂ることが出来るタンパク質は、本当に貴重な栄養源でした。
なんと、その当時のウチナンチュが豚肉や米を口にすることが出来たのは、正月料理の時だけ。そのため、一年かけて豚を飼育し、正月の準備のために解体しました。この時も、貴重なタンパク源ですから、肉は塩漬けにして保存し、時間をかけてゆっくりと食べていきました。
また、様々な部位には手を加え、加工食品として使っていきます。たとえば、油は味噌と合わせて「あんだんすー」という油味噌を作ったり、炒め物の油として油壷に保存しました。さらに、油を搾りだした後の脂身は、炒った上に乾燥させて「あんだかしー」として保存食にしました。
さらに、出し殻として使用した骨も再利用!これは、「骨汁」として立派な沖縄料理となっています。このような数々のレシピを見てもわかるように、沖縄の庶民にとって豚肉とは、本当に貴重な食材でした。ですから、この当時のウチナンチュが今の沖縄の食卓を見たら、さぞや驚くことでしょうね。
沖縄の豚肉は庶民の食材から高級ブランドへ
近年では、絶滅寸前のところまで頭数が減ってしまった在来豚であるアグーが復活し、沖縄の豚肉を代表する高級ブランド豚肉にまで成長しました。
味や品質に高い評価がついているアグー豚肉は、県外でも人気が高く、これによって沖縄の畜産業界のイメージも大きく変わりました。とはいえ、やはり沖縄の食文化にとって豚肉は、なくてはならない食材。
食文化を継承しつつも、美味しく安く食べられる日がこれからも続いてくれることを、陰ながら祈るしかありません。