トートーメーは、沖縄の家庭で代々伝わる位牌のことです。このトートーメーの継承には様々な問題があり、これまでも、様々な問題が起こってきました。何がその原因にあるのでしょうか?
トートーメーのタブー
トートーメーは、沖縄独特の位牌のことを言います。位牌は、日本全国どこの家庭でも見られるものなのですが、沖縄の場合は、家の単位で位牌を作るのが大きな違いにあります。
そのため、トートーメーの継承は、代々家長となる長男の務め。ところが、このトートーメーの継承は、これまでもしばしば大きな問題となってきました。まずは、トートーメー継承で問題となるタブーについて触れていきます。
男子のみが継承できるトートーメー
沖縄のトートーメーは、女性が位牌を継承することが出来ないという点にあります。これは、女元祖の位牌を禁止するためにできたタブーといわれています。これを沖縄の方言では、「イナグ・グヮンス」といいます。
そのため、沖縄の女性には、男の子の出産が何よりも重要視されました。
男の子が生めない女性は離縁されていた!?
首里や那覇地区の氏族の間では、結婚後も、男児を出産できない女性は、離縁の対象となっていたそうです。たとえ離縁されず最後まで夫に添い遂げたとしても、死後に夫の入る墓には入ることはできず、そのまま実家へ戻されたといいます。
さらにこのような場合、妻は、夫が妾(正妻でない妻)を持つことを容認しなければなりませんでした。位牌を継承するために仕方のないことであったとはいえ、妻の立場としては、非常に残酷な現実です。
他系混交の禁止
沖縄のトートーメーは父系の直系家族によって継承されることが、位牌の中で祖先として祀られる条件にあります。
そのため、父系の異なる男性がトートーメーを継承することはできません。このタブーは、沖縄方言では「タチ―・マジクィー」といいます。
長男がトートーメーを継承する
「嫡子押し込みの禁止」というのも、沖縄のトートーメーの基本にあります。
これは、中国の儒教の考え方が大きく影響しているのですが、沖縄でこの習慣が定着した背景に、かつての王府において望ましい家族形態が、「両親+長男夫婦+その子等」であったということも関係しています。
ちなみにこのタブーは、「チャッチ・ウシクミ」といいます。
兄弟の位牌を同じ仏壇に置くのはタブー
本土の一般的な仏壇で考えれば、理解が出来ないかもしれませんが、沖縄のトートーメーでは、兄弟が同じ仏壇の中で祀られるのはタブーとされています。
そのため、同じ家で兄弟の位牌を祀る場合は、それぞれ仏壇が必要になります。このタブーは、沖縄方言で「チョーデー・カサバイ」といいます。
従兄弟の位牌を同じ仏壇に置くのもタブー
異なる一族の祖先を一緒に祀ってはいけないとされている沖縄のトートーメーでは、従兄弟の位牌を同じ仏壇で祀ることもタブーとされています。
トートーメーのタブーに関係してくるユタ
トートーメーの継承問題で必ず関わってくるのが、ユタの存在です。先ほど紹介したトートーメーのタブーは、ユタがもたらした規則です。
ですから、法的な根拠があるわけでもありませんが、タブーを犯せば一族に災いが起こるといわれている沖縄では、その言い伝えを重要視する方もいらっしゃいます。
シジタダシ
トートーメーに関してユタが深く関わってくる一番の問題は、「シジタダシ」です。このシジタダシとは、「シジ(筋)タダシ(正し)」のこと。この時重視される筋とは、男系血族のことを言います。
筋が違うとされる場合の具体的な例が、トートーメーのタブーです。これらのタブーを犯している場合、「筋が違う」とされ、シジタダシが必要になります。
シジタダシは、過去にさかのぼり、系譜関係を正しいものに変更し、また不明な部分を明らかにすることです。
ここで注目しなければならないのは、正しい系譜関係とは「男系に従っている系譜」であるということにあります。
系図がない家ではユタ頼みとなるシジタダシ
筋が違うといわれても、その違いを見つけることは容易なことではありません。系図が残っている場合であっても、筋が違うといわれることもあります。
実際に私の知人も、位牌を少し大き目なものに切り替える際に、拝みを頼んだユタから「筋が違う」といわれたそうです。知人の実家は旧家の為、立派な系図も残る家。それだけに、親戚一同、大騒動となっていました。
なんでもユタの話によると、系図には載っていない乳児が存在しており、その子が男児であったものの水難事故で無くなっているということから、シジタダシをしなければいけないということだったそうなのです。
さすがに数代前まで遡るその乳児の存在は、生存する親族の中ではだれも知らなかったようで、言われるがまま、ユタのシジタダシを受けたそうです。
このように、きちんと系図が残っている家であっても、ユタによって筋が違うといわれることもあるのですから、系図がない家にとっては、ユタだけが頼みの綱ということなのでしょう。
沖縄では位牌は祖霊の依り代ではない
仏教では、位牌とは、祖例の依り代という意味が込められています。そのため、本土では昔から、「火事が起きたら、財産を持つより位牌が先」といわれているわけです。
ところが沖縄の場合は、必ずしも祖先崇拝に位牌が必要というわけではありません。
沖縄では、位牌はあくまでも祖先を系譜上の個性的な存在として位置づけるだけのものです。ですから、位牌そのものが、先祖崇拝に不可欠なものというわけではないのです。
トートーメーの継承で勃発する財産相続問題
トートーメーの継承は、タブーだけが問題ではありません。トートーメーを継承するということによって、財産相続の問題が起きるために、より複雑になっているのです。
民法における財産の相続
民法900条では、遺産相続の法定相続分について解説があります。この第四項において、「子、直系尊属または兄弟姉妹が数人ある時は、各自の相続分は相等しいものとする」(民法第900条第四項より引用)とあります。
ここからもわかるように、各自の相続分は、たとえ長男がトートーメーを継承するとしても、民法上では均分相続となります。
祭祀に関する継承権
もう一つの問題は、トートーメーの継承権です。
この問題については、民法897条の「祭祀に関する権利の承継」があります。この第一項によると、トートーメーなどの祭具の所有権に対して「慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が継承する」とあります。
これには、追記があり「被相続人の指定に従って祖先の祭祀を主宰すべきものがあるときは、そのものが承継する」とあります。
ここからもわかる通り、トートーメーの継承は、あくまでも祖先の供養を主宰する人物が継承するということであり、その継承において財産分与が関係するとは書かれていません。
旧民法による相続制度
ところが、旧民法では、新民法とは異なる解釈をしています。
- 妻は祖先の祭祀を主宰できない
- 旧民法では、妻という立場を、法律上「無能力者」としています。そのため、この旧民法では、たとえ妻であってもトートーメーを継承したり、祭祀を行う権限が否定されています。
- 相続は長男のみ
- 相続に関しても、旧民法と新民法では大きく異なります。旧民法の相続制度では、原則として家長または長男の単独による家督相続であるとしています。
かつての慣習法の考えが未だに残る沖縄のトートーメー
トートーメーのトラブルの1/3は、財産分与に関するトラブルです。この原因となっているのが、かつての慣習法における不公平な相続制度です。
実際には現行の新民法が採用されるので、法律上ではトートーメーの継承と財産の相続問題が絡むということはあり得ないのですが、現状として、過去の慣習が社会的な強制力を持っているため、未だにトラブルは絶えません。
どうすればトートーメートラブルを避けられるか
時代が移り変わったことにより、かつてほどタブーを重要視することがなくなってきたといわれていますが、やはり、祖先崇拝に関わるトートーメーに関しては、未だに根強く問題が残っています。
沖縄では、ここ数年で、ユタや民間信仰との関わりに次世代を、トートーメーをめぐる問題に巻き込まないようにする傾向が高まってきています。
特に、団塊世代が高齢期に突入してからは、より一層その傾向が強まっています。そのため、かつての沖縄では考えにくかった位牌の処分や永代供養などの問い合わせや相談も、年々増えてきています。
過去には、トートーメーの継承をめぐってこんなトラブルも起こっています。
ある日突然遠い親戚の男性が財産を要求してきた
男の子どもがいないという場合には、よくあるトラブルです。もともとトートーメーの継承には、女性はタブーとされています。
そのため、女性ばかりの子どもの父親が亡くなった後、ある日、ほとんど付き合いのない親戚の男性が、トートーメーの継承権があると主張し、それに伴って財産を要求してきました。
多くの場合、これまでの慣習にならって、要求通りに財産を渡すようですが、悪質な場合は、正当な相続権を持つ子供や妻に対し、相続権を放棄させることもあります。
無理やり分割協議書に捺印させる
予め、財産の相続内容の分割協議に捺印させ、法的に相続を約束させる場合もあるようです。
もちろんこの場合は、トートーメーの継承権を持つ男性のみに相続がなされるようにするための協議書ですから、女性相続人にとっては非常に不公平なことでもあります。
生前に誰にトートーメーを継承させるかを決めておく
トートーメーの継承トラブルに子供を巻き込ませないためには、生前にあらかじめ継承者を決めておくということが最も有効です。もちろん、文書に残すということも有効ですが、口頭で相続人が分かるようにしておくということも十分に有効です。
現在、仏壇継承者問題は昔ほど厳しくはありませんが、由緒あるご家庭や、身内にユタがいるご家庭、しっかりと仕来りを重んじているご家庭では、まだまだ問題が多くあるのも事実です。
そんなトラブルに後々巻き込まれてしないよう、「仏壇は誰が継承していくのか」という事を、はっきりとさせておいたほうが良いでしょう。
琉球王朝時代のお話しなので、もちろん現代ではこういうことはありません。