先祖崇拝が強い沖縄では、トートーメーは大事な家の宝。そうはいっても、現代っ子の沖縄人にとって、トートーメーの継承はいろいろ難しい問題ばかり。うまく解決するには、どんな方法があるのでしょう?
トートーメーを長男が継ぐ場合
沖縄のトートーメーとは、本土の位牌文化とは違い、一族が一つの位牌に納められる沖縄独特の位牌です。そのため、昔から一家の家長となる男性(長男)が継ぐというのが慣習となっています。
でも、少子化が進んできた現代の沖縄では、そうはいっていられない問題もたくさん出てきています。
長男がいない
かつての沖縄といえば、きょうだいがたくさんいるというのが当たり前。そのため、5人きょうだいどころか、8人きょうだい、10人きょうだいというケースもありました。
ところが、最近の沖縄では、さすがにこれほどの子だくさんな家庭は少なくなりました。そうなると問題なのが、男の子の誕生です。
いくら子だくさんだからと言っても、全員が女の子ということもあります。この場合、これまでの慣習にならってしまうと、実の子どもなのに親のトートーメーが継げないということが起こってしまいます。
婿を取る
子だくさんな家庭が多かったとはいえ、長男がいないという問題は、昔からありました。そのため、那覇や首里の氏族の間では、男の子が産めなかったことを理由に夫側から離婚を申し立てることが出来たり、夫が外に愛人を作って子供を作るということを妻として認めなければいけなかったりしました。
さすがに、今の日本では、たとえ沖縄であったとしてもこうしたこと(愛人や男の子を産めなかった事が理由による離婚)は認められません。
では、一体どうするのか?それはもちろん、婿を取ることです。
娘の結婚相手が養子として籍に入ってくれれば、その夫をトートーメーの継承者とすることが出来ます。これなら、トートーメーのタブーである「イナグ・グヮンス」のタブーを避けることが出来ます。
ただしこの場合は、婿となる男性が長男ではないということが条件です。もしも男性が長男だったら、今度は別の問題が起こってきます。
トートーメーを長女が継ぐ場合
最近、よく相談を受けるのが、「子供がみんな女の子だから、トートーメーを永代供養したい」という話。
たしかに、トートーメーを継ぐ人がいなければ、供養が途絶えてしまいますから、永代供養をするという方法もあります。でも、ちょっと待ってください!日本の法律上では、長女が継いだとしても問題はないのです。
ただし・・・これを実現するには、トートーメーのタブーが壁となります。
長女が結婚したら面倒なことが起きる
トートーメーは、先祖の位牌です。位牌の継承は、日本全国どこにでも起こりうることなので、このことに関する法律も存在します。この法律では、位牌の継承者が男性でなければいけないということは書かれていません。
ですが、沖縄独特の祖先崇拝の風習があるために、法律上では問題がなくても、実際には様々な問題が起こります。
そもそも沖縄では、トートーメーを個人の所有物という扱いをしていません。ですから、お盆や正月になると、仏壇がある家には、普段付き合いのない親戚であっても集まってきます。
ようするに、トートーメーを継ぐということは、お盆や正月の行事を仕切るという役割もあるということです。
そこで考えなければいけないのが、女性の結婚です。日本では、結婚すると夫か妻のどちらかの籍に入らなければいけません。そして、昔からの慣習で、妻となる女性が夫となる男性の籍に入るというのが一般的です。
その時に、結婚する相手の男性が長男だったとしましょう。こうなると、沖縄では必然的に夫は、その一族のトートーメーを継承することになります。ところがその時に、妻がもう一つのトートーメーを持っていたとしたら、どうなるでしょうか?
実際にこうなった場合に、考えられる解決法が3つあります。
トートーメーのための家を借りる
沖縄のトートーメーに関するタブーに、「タチ―・マジクィー」というものがあります。これは、父親の先祖が違うトートーメーを継いではいけないというものです。そのため、結婚して一緒と暮らすようになったとしても、長男である夫が長女である妻側のトートーメーを継承するということはできません。
このタブーを乗り越えるとするならば、トートーメーを祀るためだけの家を別に借りることが必要になります。
昔の人は、このタブーを乗り越えるために、「カミヤ」と言って、普段生活する家とは別に仏壇とトートーメーを祀るためだけの家を作りました。
とはいっても、改めて家を建てるというよりは、仏壇のある家(空き家)をそのまま保存し続けるというもの。こうしたカミヤは、地方に行けば今でもよく見かけます。ですから、難しい問題ではありますが、結婚生活を平穏に過ごすためには、昔の人のように仏壇の為だけの家を作れば解決することはできます。
盆と正月は2倍(トートーメー2つ分)働く
長男嫁になれば、夫側の盆や正月の実質的な運営はすべて妻が行います。お供え物の準備からお客様をおもてなしするための料理、家の掃除から片付けまで、そのすべては妻の働きにかかってきます。
「男女平等の時代に夫が手伝わないなんて・・・」と思うかもしれませんが、長男である夫には、お客様の相手をするという役割があります。しかも、ただ座って話しお客様の相手をするだけでなく、お客様がいつ来てもいいように、家に居続けなければいけません。
そんな夫の代わりに裏方を一手に引き受けなければいけないのが、長男の妻です。ところが、妻の側にもトートーメーがあるということは、妻側の一族をもてなすための準備はもちろんのこと、本来夫が行うべき役割も、トートーメーの継承者として妻が行わなければいけません。
もしもこの状況をうまく乗り切りたいのであれば、まず必要になるのが、夫の理解と全面的な協力、そして、あなたの体力です。困難を乗り越えてでもトートーメーを継承すると決めたのなら、年に2度やってくるこのイベントの期間中は、必死で働く!これしかありません。
夫側の親戚とは特に仲良くする
これまでの沖縄の慣習からすれば、長男の嫁が、夫の一族以外のトートーメーを継承するということは考えられません。それでも、時代の流れとともに、沖縄の人の間でも、慣習に関する考え方は、昔と比べてずいぶんと緩くなりました。
ですから、本来はトートーメー継承のタブーといわれていたとしても、夫側の一族の理解によって実現することもあるでしょう。でも、そういう時ほど、きちんと筋を通しておかなければ、いざとなった時に大変なことになります。
今の時代において筋を通すということは、それほど難しいことではありません。ようするに、「常に夫側の方をちょっとだけ優先する」ということを頭の中に入れておけばいいのです。
胸のうちではいろいろと思うことがあったとしても、顔ではいつも笑顔で答え、優先順位の先頭には常に夫の存在があるということが周りから見て取れるようであればOK!さらに、夫側の親戚と仲良くし、何かあればいつでも自分の見方になってもらえるようにしておけば、より安心です。
トートーメーの継承は悪いことばかりじゃない
トートーメーの継承権をもつ長男は、確かに大変です。だから、結婚する時でも、長男というだけでかなり高いハードルとなります。
でも、トートーメーを継ぐということは、悪いことばかりではありません。
小さい頃から大事にされる
長男に生まれれば、将来、どんな苦労があるのかはみんな知っています。特に、長男の親である父親は、実際にトートーメーを継いだ最も近い経験者。その苦労を、痛いほどよく知っています。
だからこそ、長男は小さい頃から大事に育てられます。他のきょうだいから見れば“ひいき”だと思われるようなことでも、「長男なんだから」という言葉で基本的には済まされます。これは、長男ならではの特権と言えるでしょう。
家庭的な夫が多い
結婚相手として人気が低い長男ですが、性格に注目してみると、夫としては最高のタイプが多いのが長男。なにしろ、家族愛・きょうだい愛が強いですから、家庭が一番という男性が多い傾向にあるようです。
平和な家庭が手に入る
小さい頃から先代のトートーメー継承者である父親のすぐそばで、親戚や大人同士の付き合い方を学んできた長男は、困難な状況であっても、うまく乗り越える方法をきちんと身に着けています。
しかも、先祖崇拝における様々な面倒ごとを一手に引き受けているわけですから、いざとなれば、一族全員から助けてもらうこともできます。それだけに、長い目で見れば長男との結婚は、平和な家庭を手に入れることが出来るとも言えるかもしれません。
財産も他のきょうだいよりも多くもらえる?
これも沖縄の慣習なのですが、トートーメーの継承者には、他のきょうだいよりも多く財産をもらうことが出来ることもあります。
その理由には、次の後継者にトートーメーを継承するまでの間、祖先を祀った仏壇を守り続けることに対する謝礼や、儀式に関する経費としての意味が含まれているといいます。
ただし、実際の相続では、この件が問題になることも度々あります。今の日本の法律では、法定相続分というものが決まっていますので、あくまでも、沖縄に古くから伝わる慣習として考えておいてください。