多くの米軍基地を抱える沖縄では、米軍基地による水質汚染が問題視されています。特に2020年4月にPFOSを含む泡消火剤の大量放出事故をきっかけに、沖縄県内の水道水に不安を感じる人が増えました。しかもPFOSは住宅街にある河川でも発見されています。そこで沖縄の水道水の安全性につい徹底調査してみました。
世界一安全といわれる日本の水道水なのに沖縄では事情が違うってホント?
日本の水道水は「世界一安全」といわれるほど、高く評価されています。
そもそも日本には「水道法」と呼ばれる水質基準を定めた法律があり、清潔で安全に飲める水を守るために厳しい基準が設けられています。
水道法が定める水質基準にはさまざまなものがあるのですが、その中には「病原生物に汚染されたことを疑わせるような物質を含まない」というものもあります。
そのほかにも「悪臭がしない」「味に異常がない」などを含めると全部で51項目にもわたる水道基準があるため、日本の水道水は世界的に見ても「清潔で安全な水」といわれているのです。
もちろん沖縄も日本の法律が適用されます。ですから本来であれば「水道水に不安を感じる」という意見は少くなくあるべきなのです。
ところが沖縄は昔から水質汚染が問題視されており、水道水を飲料水として使用しない家庭が他県よりも目立ちます。
普天間基地のPFOS大量流出事件によって不安が増した
沖縄では一般家庭においてウォーターサーバーを利用していることが多いのですが、これも米軍基地による水質汚染が解決に向かっていないことが理由の1つに挙げられます。
そんな沖縄で2020年4月に普天間基地から大量放出された泡消火剤流出事故は、沖縄の水道水に対する不安がさらに増した出来事でした。
なんとドラム缶719本分に相当する大量の泡消火剤には発がん性物質・PFOSが含まれているのですから、危険がないはずはありません。
しかも流出した泡消火剤の大半は回収されることがありませんでしたから、水道水だけでなく周辺の環境や海の生態系への影響も不安視されています。
PFOSはかつてフライパンの加工剤として使われていた
PFOSは有機フッ素化合物の一種です。
現在では発がん性物質が含まれていることが指摘されたことを受け、世界レベルで製造・使用が制限されています。
もちろん日本でも原則として製造・使用が禁止されているのですが、発がん性が指摘される以前は比較的身近な存在でした。
今では驚いてしまうのですが、なんとPFOSは「フライパンのフッ素加工剤」として使用されていた時代があります。
現在はフライパンのフッ素加工にPFOSを使用することはありませんが、身近なところに発がん性物質とされるPFOSが使われていたという事実は驚きといえるでしょう。
流出事故後、環境にはどんな影響が出ていたのか?
2020年普天間基地で起こった流出事故では、その後PFOSだけでなくPFOAも含めた水質調査が行われました。
流出地点は普天間飛行場内とされたため、宇治泊川(宜野湾市)、暗渠(あんきょ/地下にある水溝のこと)合流地点、牧港漁港(浦添市)、宇治泊上流などで水質調査が行われています。
水質調査は流出事故発生直後(4月11日~4月13日)に実施しているのですが、泡が発生した宇治泊川ではPFOS・PFOAとも日本の水道基準の約6倍のフッ素化合物が検出されています。
なお…暗渠合流地点のすぐ近くには嘉数小学校があり、学校に子供を通わせている保護者からも不安を訴える声が多数挙がりました。
すでに事故から1年半以上が経過していますが、未だに普天間基地の事故に関しては詳細が明かされていません、しかも被害状況どころか、事故発生の詳しい状況についても明確にされていないのが現状です。
それだけに生活に欠かせない沖縄の水道水に対する不安を払拭する材料は、事故発生から1年半以上が経過した今でも無に等しいといえるでしょう。
どのように対処すれば沖縄県民は水道水に不安を感じなくなるのだろうか?
世界的にも製造・使用が厳しく制限されているPFOSの大量流出事故は、アメリカ軍内でも重大な事故であるという認識は持っているようです。
とはいえ事故直後だけでなく、その後の調査や対応策などは沖縄県民が納得できる内容ではなく、現状としては事故直後から状況に変化はないといってもよいでしょう。
しかも2020年~2021年の沖縄県内は新型コロナによる深刻な問題が起きており、連日メディアで伝えられる沖縄県内のニュースもほとんどが新型コロナ関連でした。
とはいえその間にも沖縄の水質汚染は改善されていませんし、さまざまな行動制限が敷かれたことによって、沖縄県民が現状に対して抗議する場を奪われてしまったことも事実です。
それでもあれだけ大きな事故が人々の記憶から消えてしまえば、次の世代を生きる沖縄の子供たちへ負の遺産を作ることは間違いないでしょう。
そんな暗い未来を避けるためにも、まずは県民一人ひとりができる範囲で安全な水の確保に努めることが重要です。
さらに沖縄の水質問題について常に関心を持つということも、沖縄の水を守るためにできる積極的な行動の1つといえるでしょう。
沖縄県企業局が調査結果を公表している
後に、調査を行った沖縄県企業局から「企業局における有機フッ素化合物の検出状況及び水道水の安全性について」という文書がリリースされました。
有機フッ素化合物(PFOS等)が北谷浄水場の水源である比謝川や嘉手納井戸群において、他水源と比較して高濃度で検出され、浄水からも検出されています。 PFOS等については、令和2年4月に厚生労働省において、水道水質基準における水質管理目標設定項目としてPFOS及びPFOAの暫定目標値が「50ng/L(PFOSとPFOAの合計値)以下」と設定されたことから、現在企業局では同値を遵守した水質管理及び浄水処理を行っています。 なお、北谷浄水場浄水のPFOS及びPFOA濃度の合計は令和2年度の平均値で16ng/Lとなっており、PFOS等が安全なレベルに低減されていることを確認しております。 また、有機フッ素化合物の一種であるPFHxSについても、令和3年4月1日に厚生労働省において水道水質基準における要検討項目として設定されるなど、世界的にも規制に向けた議論が高まっています。このPFHxSについても、企業局では平成30年度から検出状況の情報提供を行ってきております。 今後とも定期的にPFOS等の吸着効果がある粒状活性炭を入れ替えていくとともに、PFOS等の新たな知見などの情報収集に努め、安全な水道用水の供給に万全を期したいと考えております。
沖縄県企業局では、継続的に行われている調査結果なども公表しているので、引き続き検査結果などを確認していく必要がありそうです。
2021年2月には那覇航空自衛隊からも泡消火剤が流出…
普天間基地から泡消火剤が流出した事故からおよそ10か月後…、那覇航空自衛隊からもPFOS(ピーフォス)を含む泡消火剤が飛散するという事故が発生しました。
普天間基地に比べるとかなり小量ではありますが、近隣の民家や小学校(幼稚園)に飛散した事から、後日調査と除去作業が行われました。
県の調査では、PFOSとPFOAの合計値が環境省が定める水質の暫定指針値である50ng/Lを超過した地点はなかったと発表されています。
2021年9月には金武町の井戸で高濃度で検出された…
沖縄県北部に位置する金武町(きんちょう)には、キャンプハンセンという大きな基地が存在します。
そんな金武町でも、今年(2021年)9月・・・町内の井戸9地点のうち3地点から国の基準値を上回る有機フッ素化合物PFOSが検出されました。基準値を8倍以上上回った地点もあったそうで、基地のある上流ほど濃度が高い事が調査によって明らかになったそうです。
国や県が米軍への立ち入り調査を求めましたが、拒否されたため原因特定に至っていません。2021年12月現在では、PFOS及びPFOA濃度の合計値が安全なレベルに低減しているとのことで、水道水を安全に利用できる基準値まで落ち着いているようです。
【まとめ】世界一危険な基地の危険度が増した事件
沖縄県は、小さな土地に多くの基地(日本軍・米軍)を抱えています。その為、多くの県民が騒音や健康被害(不安)に悩まされています。
米軍のヘリから物が落下するという問題が頻発している中で起こった、今回の泡消火剤大量流出問題。。
世界一危険な基地と言われる理由が一つ追加される大きな出来事となりました。
水道水は、生きている私たちにとって必要不可欠なものです。ですから、今後も水道水に含まれるPFOS等の数値などをチェックして行く必要がありそうです。
後に国の調査で、航空自衛隊那覇基地の消火専用水槽からは有機フッ素化合物PFOSなどが国の暫定目標値の9200倍に当たる高濃度で検出されたそうです。
PFOSが含まれている水槽は「適切に管理・処分する」と発表されていますが、こちらの動向も念のためにチェックしておく必要がありそうです。